『ドラゴンボールZ たったひとりの最終決戦〜フリーザに挑んだZ戦士 孫悟空の父〜』(ドラゴンボールゼット たったひとりのさいしゅうけっせん〜フリーザにいどんだゼットせんし カカロットのちち〜)は、1990年10月17日に放送された『ドラゴンボールZ』のテレビスペシャル映画。
解説
本作はシリーズ初のテレビ映画であり、全作品で唯一孫悟空たちが活躍するよりも前の話を描いた、シリーズ初のスピンオフストーリーである。作中の時点では悟空は生まれて間もない赤子であり、いっさい活躍しない。また、リマスター版アニメ『ドラゴンボール改』では本作のクライマックスシーンが第1話の導入と第42話に使用されている。
鳥山は本作について、アニメで印象に残っているエピソードで[1]、劇場版・TVスペシャルの中で一番好きな作品と答えており[2]、「僕だったら絶対描かない話。いい意味で違うドラゴンボールを見ている感じがする」と語っている[3]。 主人公のバーダックは本作品のオリジナルキャラクターであったが、後に原作漫画における孫悟空とフリーザとの会話の中で登場した(其之三百七)。これは鳥山が本作を見て感動したというのが理由である。ただし、後年の鳥山は、自分がバーダックを登場させたことを覚えていなかった[4]。海外では日本語のバージョンも収録したDVDとBlu-ray Discが発売されている。日本においてはDRAGON BOX1の特典としてDVD化され、2011年8月5日発売のDRAGONBALLZ SPECIAL SELECTION DVDに収録される。また、本作で実質バーダックのテーマとして用いられているサントラの「ソリッドステート・スカウター」はアニメシリーズでは本作のみの使用で、戦闘シーンで使用された。この曲はイエロー・マジック・オーケストラのアルバム『SOLID STATE SURVIVOR』へのオマージュでもある(イントロ部分のみ『テクノポリス』)。
ストーリー
全宇宙一の戦闘民族サイヤ人の住む惑星ベジータで一人の男の子が産声をあげた。その名は「カカロット」、後に孫悟空となる男の子である。同じその頃、サイヤ人戦士「バーダック」の一味はカナッサ星を攻めていた。彼、バーダックこそがカカロットの父である。大猿と化したバーダックたち5人のサイヤ人によって、カナッサ星は一夜にして陥落した。
翌日、仲間から「息子の誕生祝い」などとからかわれながら休憩を取っていたバーダックに、カナッサ星人最後の生き残りであるトオロが襲い掛かる。トオロはバーダックに不意打ちを浴びせ、バーダックの仲間たちの攻撃を食らいながらも「お前に未来を予知できる幻の拳を放った。未来を見てせいぜい苦しむがいい」と嘲笑いながら絶命。その直後にバーダックは意識を失ってしまう。
カナッサ星の制圧の報は、それをサイヤ人に命じたフリーザの元へと入る。しかし、名もない下級戦士たちが予定より1ヶ月も早く惑星の制圧を完遂したことで、フリーザの側近ザーボンは、個人では大した強さを持たないが、徒党を組むことでとてつもない力を発揮するサイヤ人たちに対して危機感を抱き始め、フリーザとドドリアの前でそのことを吐露した。
数日後、バーダックの傷はほとんど完治していたが、脳波に異常があると診断された。次の命令は惑星ミートの制圧に決まったが、トーマたちはバーダックの容態を気遣い、彼を残して出発する。フリーザによってサイヤ人が滅ぼされるという夢を見た後意識を取り戻したバーダックは、仲間に置いていかれたことを知って自分も惑星ミートに向かおうとするが、その途中で自分の息子、すなわちカカロットとの初めての対面を果たす。奇妙な夢との関わりが気になりつつも、息子の戦闘力がたったの2と知り、失望して「クズが」と言い残してその場を去ってしまう。
惑星ミートでは、フリーザの部下であるドドリアとその部下たちがトーマらバーダックの仲間たちを攻撃していた。バーダックが到着した頃には仲間はほぼ全滅。虫の息であったトーマは、バーダックにフリーザの裏切りを伝えて絶命する。バーダックはドドリアの部下4人に立ち向かいこれを倒すも、直後に現れたドドリアの攻撃で重傷を負う。
傷つきながらも惑星ベジータへの帰路についたバーダックは、フリーザが惑星ベジータに向かっていることを確認する。今まで自分が見てきた奇妙な夢が、全て真実であったことを悟ったバーダックは、惑星ベジータに到着するとフリーザに立ち向かうために仲間のサイヤ人たちに呼びかけるが、彼らはバーダックの言葉をまるで信じようとはせず、逆に笑いものにされるだけだった。自分自身、惑星ベジータ、そしてカカロットの運命と未来を変えるため、フリーザに挑むことを決意したバーダックの、たったひとりの最終決戦が始まろうとしていた。
登場キャラクター
- バーダック
- 声 - 野沢雅子
- ラディッツ、カカロット(孫悟空)兄弟の父。容姿は目つきの鋭さをラディッツが受け継いでいる以外は、髪型などカカロットと瓜二つ。性格は粗野で口調も荒く、子供に対する愛情も薄いが、仲間に対する思いは強い。サイヤ人の最下級戦士の生まれであるが、度重なる激戦と死線を潜り抜けてきたことによって、その戦闘力は10000前後と、エリートサイヤ人にも引けをとらず、その勇猛さはサイヤ人の間では有名だったとされる[5]。トーマらが敵わなかったフリーザ軍兵士を一撃で葬るパワフルさ、数十人のフリーザ軍兵士の攻撃をいなしたり相手の裏をかいたり同士討ちを誘発したりするなどテクニカルな戦闘スタイル、「『大丈夫』どころではない」と言われた瀕死の重傷を負った状態でも阿修羅のごとき拳を振るう精神力など、戦歴に裏付けられた高い戦闘能力を持つ。
- キャラクターデザインの中鶴曰く、プロテクターの肩当てが無いデザインになった理由は演出の橋本が「黒澤明監督の映画『七人の侍』のイメージでいきたい」と話していたからである[1]。
- トーマたちとともに侵略していたカナッサ星にて、カナッサ星人・トオロの「幻の拳」を受けたことによる予知夢でサイヤ人の行く末を見せられ、フリーザの支配に疑惑を持ちはじめるようになる。そしてトーマたちの死によって、フリーザの裏切りを確信する。表立って叛意を翻したバーダックは、同族たちに説得を試みるが全く真に受けてもらえなかった。この事で同族たちに失望するも、単身での決戦を覚悟したバーダックは、滅びゆく運命に逆らうため、フリーザに挑む[6]。
- 惑星ベジータに接近するフリーザの宇宙船に向かったバーダックは、フリーザの部下たちに接近を阻まれながらも奮闘し、やがて姿を現したフリーザに渾身の力を込めたエネルギー弾を飛ばす。しかしフリーザも指先で作り出したエネルギーの球体を一挙に巨大化させて惑星ベジータに向けて撃ち放った。バーダックのエネルギー弾はそれにかき消され、自身もなす術もなく飲み込まれた。絶命する直前、カカロットとフリーザが対峙する予知夢[7]を見て静かに微笑み、我が子の名前を叫びながら、惑星ベジータと運命をともにした。惑星ポッドに乗って地球に向かっていた息子に、自分の遺志を継ぎ、惑星ベジータの仇を討つよう語りかけたのが最初で最後の父から子へのメッセージとなった。フリーザと対峙するバーダックの姿は、劇場版で幾度となく使用されている。
- 妻については、ベジータや息子であるラディッツの口から「惑星ベジータ消滅時に死亡した」ことが語られた以外いっさい触れられておらず、謎に包まれている。
- 名前の由来は英語でゴボウを指すバーダックから[4]。
- フリーザに放ったエネルギー弾はゲームで「スピリッツ・オブ・サイヤン」と名づけられた。ゲームでは「ライオットジャベリン」または「ファイナルスピリッツキャノン」のどちらかの名称が使用されており、スピリッツオブサイヤンという名前の究極技が別に用意されている。
- 『真武道会2』では、あの世の世界に滞在しており、とある事情で悟空や悟飯たちと対面することとなる。現世を襲う脅威に対抗するための戦力として、ブウ編の悟空のように期間限定で現世に降り立つことが許された。死してなお、強者との戦いを渇望する意志は健在である。
- アーケードゲーム『ドラゴンボールヒーローズ』では超サイヤ人に変身可能になり、その前後で発売されたVジャンプでは超サイヤ人に目覚める経緯が描かれたオリジナルストーリーが3号に渡って漫画化された。
- カカロット
- 声 - 野沢雅子
- 生まれたばかりのバーダックの次男。潜在能力(戦闘力2)が低いと判定されたために、即座に辺境の惑星(地球)へ制圧の尖兵として送り込まれることになる。地球到達時の発見の様子は、アニメ本編とは描写が少々異なっている。原作で「地球で転落事故に遭うまではサイヤ人らしく凶暴だった」という設定があるが、本作品中では全く凶暴さは見受けられない。
- 名前の由来は英語でにんじんを指すキャロットのもじり。
- トーマ
- 声 - 曽我部和恭
- 5人の中ではサブリーダー。バーダックの仲間であり、無二の親友。風貌は面長だが比較的男前で、長い後ろ髪を束ねている。被弾した者が燃え上がるエネルギー波を使う。ドドリアに倒されるが、死の間際、バーダックにフリーザの裏切りを伝えた。バーダックが頭に巻いた赤い布は元々彼が腕に巻いていたもので、白無地であったものが彼の血で赤く染まった。
- 名の由来はトマト。
- セリパ
- 声 - 三田ゆう子
- バーダックの仲間。バーダックチーム唯一の女戦士。風貌は、ショートカット(ボブ)で切れ長の目つきをしているが、なかなかの美女である。トテッポ、パンブーキンらとともにドドリア一味に倒された。
- カナッサ星制圧直後にはバーダックに息子に会うよう薦めるシーンもあり、女性らしく同族の赤ん坊に対する愛情はあることを示唆していた。
- 後年、ゲーム版で復活を遂げている。王に向かって啖呵を切る、ザーボンを「カマ野郎」と罵るなど、気性の激しさこそあるが、全体的に単純で冷酷非情なだけのサイヤ人戦士の中で、彼女は姉御肌的な義理堅さを持つ女性となった。
- 名の由来はパセリ。
- トテッポ
- 声 - 塩屋浩三
- バーダックの仲間。無口で、いつも何かを食べている巨漢。ほかのサイヤ人と違って残忍な笑みも浮かべず、単に戦闘種族の本能に従っているように描写されている。風貌はエラの張った輪郭で、頭頂部が禿げており、額に3本の斜めの傷があり、激しい戦歴を象徴している。ボロボロになりながらもドドリアに向かっていく姿が見られたが、一瞬で倒された。彼が声を発したのは、ドドリアに突進していくときの声のみである。
- 名の由来はポテト(ジャガイモ)。
- パンブーキン
- 声 - 渡部猛
- バーダックの仲間。肥満体ではあるが、スピードはかなりのもの。5人の中では一番気が短く、思考は良く言えば素朴、悪く言えば単純で、かつ短絡的。自分たちをよく使ってくれるフリーザたちに感謝までしていたが、ドドリア一味に倒された。
- 名の由来はパンプキン(かぼちゃ)。
- トオロ
- 声 - 銀河万丈
- バーダックたちに滅ぼされたカナッサ星人の生き残り。最後の力を振り絞り、バーダックに未来を予知する拳を浴びせて呪われた未来を見せようとする。サイヤ人たちは滅び去る運命にあるとして嘲笑い、直後にバーダックによって倒された。
- トーマ曰く、カナッサ星は「へんな超能力を得られるエネルギーがある」惑星として知られていた。
- 名前の由来はトロ(魚)、惑星カナッサの名の由来は魚をイタリアに実在する地名風にもじったもの。
- ベジータ
- 声 - 堀川亮
- 本作の幼年期のデザインはキャラクターデザインの中鶴が担当して、王家の紋章のデザインは演出の橋本が担当した[8]。
- サイヤ人の王子。生まれつき高い戦闘力を誇り、弱冠5歳にして強化型の栽培マンを一瞬にして倒し、さらにとどめを刺した。幾度か惑星に送り込まれ、成果を挙げているが、「大した手ごたえはない」と苛立ち、フリーザに対して、より手強い惑星への派遣をねだっている。惑星ベジータの消滅をナッパから聞かされたときも、全く気にかけない酷薄さを見せた(このときのナッパは、ベジータの態度に当惑していた)。
- ナッパ
- 声 - 飯塚昭三
- ベジータの側近。この時点では頭頂部に頭髪が残っており、体格も若干細身に描かれている。フリーザへ惑星をねだるベジータ王子に頭が上がらない。
- 惑星ベジータ消滅時には、大きく動揺しながらベジータにそのことを伝えた。
- フリーザ
- 声 - 中尾隆聖
- 働き者で強力なサイヤ人を気に入ってはいたが、いつまでも命令に従順な種族ではないことや、飛び抜けた戦士が生まれ始めたことなどから不信感を抱き始める。ザーボンの発言が引き金となり、惑星ベジータを消滅させることを画策する。惑星ベジータを爆発させて「花火」にし、宇宙船内のザーボンとドドリアが呆然としている前で狂喜していた。
- ザーボン
- 声 - 速水奨
- フリーザの側近。予定より1週間早く惑星カナッサを制圧したのがサイヤ人の下級戦士だったと知り、徒党を組まれたら目障りになると危惧した。
- ドドリア
- 声 - 堀之紀
- フリーザの側近。フリーザの命令を受け、4人の部下とともにミート星を侵略していたバーダックの仲間4人を殺害。連れていた部下4人を一掃したバーダックにも重傷を負わせるが、スカウターの通信による帰還命令を受け、彼の死亡を確認せずにミート星から飛び去った。
- 孫悟飯
- 声 - あずさ欣平
- 地球に送り込まれた、尾の生えた赤ん坊(カカロット)を拾った老人。当時の地球では最強だった亀仙人の一番弟子。赤ん坊は彼によって「孫悟空」の名を与えられる。ラストシーンのみに登場。
- サイヤ人
- 声 - 掛川裕彦、真地勇志、佐藤智恵、里内信夫、中尾みち雄
- フリーザが惑星ベジータを消滅させようとしていることを伝えに来たバーダックの言を真に受けず、「あいつはイカれてる」と嘲り笑い、本気にしなかった。
- ナレーション、惑星ベジータの医師 - 八奈見乗児
スタッフ
- 原作 - 鳥山明
- 企画 - 森下孝三、清水賢治
- 製作担当 - 鳥本武
- シリーズ構成 - 小山高生
- 脚本 - 小山高生、隅沢克之
- 音楽 - 菊池俊輔
- 美術設定 - 池田祐二、吉田智子
- 美術監督 - 吉田智子
- キャラクターデザイン - 前田実、中鶴勝祥
- 作画監督 - 中鶴勝祥
- シリーズディレクター - 西尾大介
- 作画監督補佐 - 佐藤正樹
- 原画 - 江口寿志、山室直儀、海老沢幸男、井上栄作 ほか
- 動画 - 館直樹 ほか
- オーディオディレクター - 小松亘弘
- 選曲 - 宮下滋
- 演出助手 - 藤瀬順一
- 演出 - 橋本光夫
- 制作 - フジテレビ、東映動画
主題歌
- オープニングテーマ『CHA-LA HEAD-CHA-LA』(作詞 - 森雪之丞、作曲 - 清岡千穂、編曲 - 山本健司、歌: 影山ヒロノブ)
- 挿入曲『ソリッドステート・スカウター』(作曲・編曲 - 岩崎文紀、VOICE - TOKIO、演奏 - Dragon Magic Orchestra)
- エンディングテーマ『光の旅』(作詞 - 佐藤大、作曲 - 清岡千穂、編曲 - 山本健司、歌 - 影山ヒロノブ、KUKO)
脚注
- ↑ 1.0 1.1 ジャンプ・コミック出版編集部編「鳥山明×中鶴勝祥対談」『テレビアニメ完全カイド「DRAGONBALL Z」孫悟空伝説』集英社〈ジャンプ・コミックス〉、2003年10月8日、ISBN 4-08-873546-3、90-102頁。
- ↑ 『ドラゴンボール 大全集6巻』
- ↑ 『ドラゴンボール 大全集6巻』
- ↑ 4.0 4.1 ジャンプ・コミック出版編集部編「capsule column 5 キャラ名の由来を知りたい!」『ドラゴンボール完全版公式ガイド Dragonball FOREVER STORY 人造人間編~魔人ブウ編 All BOUTS & CHARACTERS』集英社〈ジャンプ・コミックス〉、2004年5月5日、ISBN 4-08-873702-4、159頁。
- ↑ 戦闘力に関しては作中アニメの衛生員の会話の内容やゲーム・DRAGON BALL Z Sparking! METEOR公式サイトのキャラクター説明で“戦闘力10000近く”と出ていたが、アニメコミックス版の登場人物紹介の覧ではバーダックは“戦闘力10000以上”と表記されており、多少の誤差が見られる。
- ↑ 実は、このときすでにベジータ王とエリート部隊が反乱、フリーザを襲撃している。フリーザがサイヤ人絶滅を決意する以前から不穏な動きを行っていたともされ、実際は「ベジータ王の反乱」→「フリーザの討伐決意」→「バーダックの反乱」という順序であった。なお、このときフリーザが惑星ベジータの近くにいたのは、王子ベジータを部下として引き取るためで王もそれを理由に船に進入していた。
- ↑ このとき見た予知夢は、カカロットが第1形態のフリーザと対峙しているものだが、実際はカカロットが初めて相対したときのフリーザはすでに最終形態であった。
- ↑ 『ドラゴンボールZ 孫悟空伝説』
|
このページには、クリエイティブ・コモンズでライセンスされたウィキペディアの記事が使用され、それをもとに編集がなされています。使用された記事はドラゴンボールZ たったひとりの最終決戦〜フリーザに挑んだZ戦士 孫悟空の父〜にあり、その著作権者のリストはページの履歴に記録されています。 |